海文堂書店 KAIBUNDO
本の生一本 <第22回>

『江戸川乱歩傑作選』

 江戸川乱歩著
 新潮文庫
 本体438円


 江戸川乱歩については、探偵小説ファンはもちろんのこと、その名前を知らぬ人はほとんどいないだろう。
 乱歩は我が国探偵小説の創始者の一人であり、名探偵明智小五郎の生みの親でもある。そして、怪人二十面相や小林少年を団長とする少年探偵団を創り出した人物であることは、わざわざここに書くまでもないと思う。さらに、乱歩は探偵小説作家以外にも探偵小説評論家としても活躍し、日本探偵作家クラブの初代会長まで勤めた偉大な存在である。
 筆者が高校時代の昭和四五年に、乱歩死後初めての全集である講談社版『江戸川乱歩全集』(全十五巻)は完結した。当時探偵小説を片端から読み漁っていたので、乱歩の小説が読みたくてたまらず、小説が収録されている第一巻から十二巻までは、元町商店街にあった古書店「門書店」で入手したのであった。最後の配本第十五巻『幻影城(正・続)』は、灘区水道筋近くの中央筋にあった新刊書店「中央堂書店」で購入した。その巻に収録されていた探偵小説の評論は、筆者の探偵小説への情熱にますます火をつけたのであった。では全集の残りの二巻はどうしたかと言うと、第十三巻と第十四巻は『探偵小説四十年』だったのだが、この二冊を古書店ではなかなか見つけることはできず、ようやく購入できたのは「門書店」同じ元町商店街の古書店「こばると書房」であった。
 当時乱歩の作品を文庫版で容易に入手できたのは、新潮文庫版だけだったと思う(春陽文庫でも出ていたはずだが、春陽文庫自身を新刊書店で全く見かけなかった)。それが本書である。
 実は、乱歩の作品を読んだのは本書ではなく先程述べた講談社版の全集だった。何も知らない高校生の筆者は乱歩の処女作「二銭銅貨」を長編と思いこんでおり、その題名の本を探していたのだった。それが短編だと知ったのは、全集第一巻を読んだときである。今となっては笑話以下の話である。
 さて、本書には処女作「二銭銅貨」の他に、「二廃人」「D坂の殺人事件」「心理試験」「赤い部屋」「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「鏡地獄」「芋虫」の九編が収録されている。いずれも傑作ばかりである。「D坂の殺人事件」は明智小五郎が初めて登場する記念すべき作品。また、「心理試験」は真に鬼気迫る傑作であり、乱歩の探偵作家としての力量がうかがえる。「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「鏡地獄」「芋虫」といった他の収録作品も、題名も一度聞くと忘れることができないばかりでなく、読めば必ず強烈な印象を残すものばかりである。
 残念なことに本書には幻想譚の最高傑作「押絵と旅する男」が収録されていない。しかし、落胆することなかれ。現在光文社文庫から『江戸川乱歩全集』(全三十巻)が刊行中である。「押絵と旅する男」はその第九巻に入っているので容易に入手することができる。しかし、まず本書新潮文庫版『江戸川乱歩傑作集』を読むことをお薦めしたい。本書を手に取られたならば、迷わずレジに直行されたい。

2006年2月1日
千鳥足 純生(ちどりあし すみお)
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